アフリカ南部・ボツワナ北部に広がるオカバンゴ・デルタ。
ここは、世界でも珍しい “海に流れ込まない川” が作る巨大な内陸湿地帯で、2014年にユネスコの世界自然遺産に登録されました。

他に似たものがない独特の生態系と、水と命のダイナミックな循環が見られるこの場所は、「地球の奇跡」とも言われるほど。
では、いったい何がそんなに特別なのでしょうか?
オカバンゴ・デルタに水が届く仕組み:浸水と脱水のサイクル
ボツワナの雨季は11月~5月頃ですが、乾季(6月~10月)はほとんど雨が降りません。
野生動物たちにとっても水がもっとも貴重になるこの季節、アンゴラに降った雨が何か月もかけて川を下り、ついにオカバンゴ・デルタへとたどり着きます。
ところがこの川、水は海へ向かうのではなく、乾いた大地に吸収され、蒸発して消えてしまうのです。
まるで「天から授けられ、地に還る水」。
この不思議な水の流れが、オカバンゴ・デルタの命の源なのです。
さらに、ボツワナの地形がほぼ平らなこともあり、水は特定の方向に集まるのではなく、無数の水路に枝分かれしながら広がっていきます。
それが、あの “手のひらのような形” のデルタを作り出しています。

湿地ならではの、命のリズム
このデルタの上流部では、水は溜まり、排水されることがほとんどありません。
そのため、特有の湿地環境が形成され、そこにしか見られない植物、微生物、水生昆虫などの生態系が広がっています。
面白いのは、雨季とは別に水が流れ込んでくる季節(水の旬!)があり、それに合わせて動物たちの暮らし方がガラリと変わること。
野生動物、鳥、魚、虫、そして草木までもが、この水のリズムに合わせて生きているのです。
これはまさに、自然のプロセスが見事にかみ合って成り立っている世界。
オカバンゴ・デルタは、気候・水・生物が相互に影響し合う「地球のしくみ」が見える、貴重な生態系モデルとも言われています。

人の手が入りすぎなかったからこそ残った奇跡の風景
オカバンゴ・デルタ内部へのアクセスは、小型飛行機での移動が主流。
その奥地に広がる大地は、いまもなお、大規模な開発とは無縁のまま残されています。
デルタ内では、無秩序にホテルを建てることは許されておらず、宿泊施設はそれぞれの限られたエリアで、小規模に、そして静かに営まれています。
電力や水も、自給自足に近い形でまかなわれ、この地は長いあいだ、人の手が入りすぎることなく守られてきました。
さらに、上流の水源をもつアンゴラやナミビアとの間では、「オカバンゴ川流域水委員会(OKACOM)」による共同管理の枠組みがあり、ダム建設や過剰な取水を防ぐ国際的なルールが機能しています。
こんなふうに丁寧に守られてきたからこそ、私たちは今、この“奇跡の風景”に出会えるのです。
おわりに
気候変動による水量の減少が心配される中、オカバンゴ・デルタのこの奇跡の循環が、これからも長く続いていくことを願うばかりです。
今、この美しさが確かに残っているうちに、是非お越しください。
その一歩を踏み出すお手伝いをさせていただきます。